
【ニュースカルチャー イサンワン記者】 失業、災害、憎悪、排除、人間関係の亀裂は別々の出来事に見える。だがジグムント・バウマンは、その背後で動く共通の感情を捉えている。『不安の起源』は現代人が日々抱く不安を性格の欠陥や心構えの問題に還元しない。恐怖が社会構造の中でいかに生産され、拡散され、そして個人の責任に転嫁されるのかを問う。
バウマンが提示する核心概念は「流動する恐怖」だ。固定的な制度や安定した規範が崩れた社会では、恐怖は特定の場所にとどまらない。災害は誰にでも起こり得、排除は予告なく訪れる。人間関係さえ安全な避難所にならない。タイタニック・シンドロームに関する議論がこれをよく示している。現代人の内面は、誰もが沈没するかもしれないという恐怖と同様に、自分だけが取り残され見捨てられるかもしれないという感覚に蝕まれている。
本書の強みは、不安を個人の心理状態に矮小化しない点にある。市場が競争を日常化し、国家は市民に十分な保護を約束できない。メディアは目に見えず触れられない脅威を生々しい現実に変える。人々は生き残るために過敏になり、疑心が生まれ、簡単に敵が見出される。関係の世界さえ日々偵察と衝突が行われる国境地帯と化すとバウマンは診断する。その指摘は鋭い。不安は人間を萎縮させるだけで終わらない。やがてそれは怒りと排除へと向かう。
バウマンの文章は読者を平易に引き込むものではない。概念は大きく、文は密度が高い。社会学的思考に慣れない読者は、いくつかの段落で抽象性の壁を感じるかもしれない。しかし、その密度こそが本書と軽い慰めの書とを分ける。慰めの処方箋を与える代わりに、不安がなぜ繰り返されるのかを徹底して追う。慰めを求める読者よりも、原因を知りたい読者に長く残る一冊だ。
『不安の起源』はバウマン生誕100年にあたり再読する価値がある。現代社会の不安は、より速い技術や大量の情報のなかでも減っていない。むしろ人々は自分を責めやすくなり、他者をより早く疑うようになっている。バウマンは時代を悲観的に見るが、完全には諦めていない。「人生は長く長い闘いである」という一文は楽観のスローガンではない。不安を正面から理解したうえで、孤立した個人を再び社会的存在として呼び戻そうとする老思想家の呼びかけに近い。
ニュースカルチャー イサンワン prizewan2@nc.press













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